*
宿屋の入り口に着くと、ヘレンは兄と妹を外で待たせて、借りている部屋へと向かった。
大きく深呼吸をしてから、そっと扉を押し開ける。
すると、窓辺の椅子に腰掛けて外を眺めていたセカイが、頬を緩ませながらゆっくりと振り向いた。
「………おかえり、ヘレン」
その声はやはりヘレンの耳に、柔らかく優しく甘く響いたが、ヘレンの心はもう揺らぐことはなかった。
年季の入ったランプが、出窓に置いてある。
風にちらちらと揺れる火が、セカイの姿を幻想的に照らしていた。
ヘレンは一度目を閉じてから、セカイを真っ直ぐに見つめる。
「………セカイ。
さっきは、ごめんなさい」
「ーーーなんのこと?
僕、謝られるようなこと、されたっけ?」
セカイは首を傾げたが、その目許は少し可笑しそうに、穏やかに細められている。
ヘレンはその優しさに感謝した。



