ヘレンは漁師小屋の戸を開けた。




いったい何度、この動作を繰り返したことだろう、そう考えながら。




でも、こうやってこの戸を開けるのも、これで最後だ。





「……セカイ? 起きてる?」




灯りも点けていない、暗い部屋の中をぐるりと見回す。





「………うん。起きてるよ」




柔らかなセカイの声が聞こえてきた方へ、ヘレンは目を向けた。




月明かりも差し込まない、真っ暗な片隅に、赤みがかった紫の灯火が点っているように見えた。




その双眸が、ヘレンの荷物に向けられる。





「大きな荷物だね、ヘレン。


どこかへ、行くの?」