天と地の叙事詩Ⅱ Epic of the Ether

扉を開けた瞬間、ぶわりと、濃い潮のにおいが鼻をつく。






ヘレンの暮らす村は、カルフィ港の近くにある小さな漁村である。



背後に迫る山々によって沖へと押し出されそうに見える、海岸沿いの狭い土地に、肩を寄せ合うようにして小さな家屋が立ち並んでいる。





村人の数も少なく、全員が顔見知りだ。




そして、その村人のほとんどが、海にまつわる仕事ーーー舟に乗って魚を獲る漁師や、近海に潜って小魚や貝などを獲る海女、それらを売り歩く行商人ーーーに従事していた。






この海辺の村でヘレンは生まれ育ち、時々カルフィの港町に出て買い出しをする他は、ほとんど村から離れることなく生きてきた。





ヘレンの身体は常に、海に晒されていた。



海の水に、海の風に。






(あたしは一生、海から離れることはできないーーー)





漠然と、切なく、ヘレンはそう感じていた。