天と地の叙事詩Ⅱ Epic of the Ether

「………なんか、不気味な奴だな………。


あれ、誰? タツノ」





チキュが眉を顰めて訊ねてきた。



タツノはヴェールの奥から真っ直ぐにこちらに向けられた瞳を、じっと見つめる。






「中納言………ミチハだよ」





漆黒の双眸が、眦が切れてしまいそうなほどに見開かれた。




ぱっと機敏な動作で振り返り、大きく瞠目したまま、歩み去る男を目で追う。






「ーーーあれが、………ミチハ」





今にも消えてしまいそうなほどに小さく、掠れた声だった。





まだ幼さの残る頬が、ぴくりと痙攣したように見えた。



タツノの中に、不安の思いが拡がる。




(………こいつは、今、何を考えているのだろう)




チキュはまだ顔を背けたまま、硬直して、ミチハの後姿を凝視している。






(こいつは、あの男を、どうするつもりなのだろう………)




家族のような存在を、突然に、無理矢理に、奪ってしまった男だ。







(………復讐ーーー)




黒い暗雲が、タツノの胸を占めた。





(…………危険だ。


決して、目を離さないようにしなければ)