冬子さんは僕を真っ直ぐに見詰めた。

「それは、あなたが、あなただからです」

「僕が僕だから?」

「そうです。

その、人を真っ直ぐに愛する心をいつまでも持ち続けてくださいね」

そう言うと、冬子さんはとびっきりの笑顔を浮べた。

そして、クルリと踵を返すと、その長い黒髪をフワリとなびかせながら、爽(さわ)やかな初夏の風のように颯爽(さっそう)と、この部屋を出て行った。

ありがとう。

本当にありがとう。

僕は冬子さんの後姿に深々と頭を下げた。