僕は廃ビルの前に立った。

五階建てのこじんまりとした廃ビルが夕闇の中に不気味に浮かび上がっている。

割れた窓ガラス。

外れた窓枠。

汚れひび割れたコンクリートの壁。

闇を湛(たた)えた窓達が深く暗い怒りと憎しみを宿した悪霊の眼窩(がんか)の様に僕を見下ろしている。

僕はゴクリと生唾を飲み込んだ。

不気味だ・・・。

一瞬逃げ出したくなる。

しかし、ここまで来て逃げる訳にはいかない。

僕は意を決すると廃ビルの入口のドアへと近づいた。