ディルバはクスクス笑いながら、職員室へと出かけていった。


チェルミは魔法の国にやってきたディルバへ返事をしたときのことを思い出していた。

ディルバはかなり緊張した面持ちだったが、チェルミが泣き腫らしていないことに気付いてすぐに笑顔で言った。

「反対はされなかったんだね。」


「そうよ。そのかわり、ミレイお姉さまとカリフの結婚式の方が先だからって。」


「そうか。あはははは。それは仕方ないだろ。」


「でもいいの?
私は魔女だし、卒業したってできないこといっぱいだし・・・。」


「それはお互い様だろ。
俺もつい最近まで自分は超能力持ちの人間だとばかり思っていたし、妖精族の親戚なんて信用する気にもなれなかったよ。

でも、ウィルス1つでいろんなことがわかってしまったし、ずっと父親だ、お婆さんだと思ってた人たちがあかの他人だってわかったときは・・・どうしていいかわからなかった。」


「それも、私にかかわったせいだよね。」


「気にするなって。
いずれはわかっていたことだと思うし、父さんが冷たいのも納得できた。
それだけでも前にことは運んだんだからな。

それに、君に会えたのがすごくよかったと思ってる。
実際のところあんまり魔法使ってるのだって知らないんだけどな。」


「そう言われればそうだった。
お父様に魔法を禁じられて、この世界には人間の女の子としてやってきたんだもんね。」


「俺は今だって、おまえが魔女の生徒だなんて思ってないからな。
生徒はみんな同じだから。

ただ、2人きりのときや人間界じゃないところでは、俺はきっと・・・君を好きにならずにはいられない。
なんてな・・・ふふふふ。」



チェルミはランダルの授業を受けてから就職活動をしている友人たちと話す機会があった。

妖精王をまきこんだウィルス騒ぎのせいで、学生生活が適当になってしまっていた。

うっかりして、まわりが就職活動や進学活動していることまで気がまわっていなかった。


「そうだ・・・みんな就活中だったんだ!」


ディルバは1年の担任だから、卒業生の受け持ちではないけれど、ランダルは3年の担任。

初めての卒業生ということになる。


恋人もできたみたいだし、ある意味大変なのかも・・・。と思ってしまったチェルミだった。



そして翌日の夜、魔法が使える時間になってからミロアに魔法で通信した。

内容は、ミロアを店長とした架空のお店に雇ったことにしてほしいという理由だった。

自分だけ就活していないというのはまずいと思ったのと、どこにも就職していないことが他の先生やいろんな人の耳に入ると、誰かに職を世話されてしまいそうな気分になってしまうからだった。



「わかった。兄貴の店に就職したことにしてやろう。
そうだな・・・マジックアイテムショップってことでいいな。

詳細もいるのか?
うーーーん、服とか魔法使いのコスプレみたいなのでいいか?」


「うん、そんなのでいいと思う。
あとはランダルにうまく言ってもらえば何とかなると思うわ。」


「そうか。それと・・・妖精王と本当に結婚するつもりなのか?」


「ミロア兄様なんで?」


「いや、王宮の魔法使いが妖精王の妻になるなんて過去にないからな。
それに・・・おまえにはいくつか見合いの話がきていてな。」


「そんなぁ・・・お見合いだなんて!」


「見合いの話は王室に生まれれば誰でも来るものだから、仕方がないんだ。
親父殿だってずっと、悩んでおられたからな。

とくに男と違って女は早く決まらないと王家が亡ぶとかいわれていてな。
あくまでも迷信だが、家を継ぐ者のじゃまになるといわれているんだ。」



「そっかぁ。お兄さまも大変だね・・・。
でも、私はこれから卒業式もあるし、それからミレイお姉さまの結婚式もあるし、その後だから焦らないよ。」


「そうだな。
新しい妖精王は来年も先生をするのか?」


「みたいだよ。家でできるし、用があるときもテレポートすればもどれるからって・・・。
じゃないとお婆ちゃんや人間界のご家族と縁をすべてきるってわけにもいかないみたいだもん。」


「なるほどな。
それで、招待状がまだ来ないわけだな。」


「招待状って?」


「あ、おまえは知らないのか。
妖精族は結婚式の招待状はかなり早くに送ってくるものなんだ。
とくに、新しい妖精王が就任するときなんかはな。

でもいまだにきていないからちょっと気になってな。」


「そうなの?また、きいてみるよ。
じゃ、合格証だけお願いね。じゃ、またね。」