それから3日たった朝のこと・・・チェルミは「あっ!」と声をあげた。

奇しくもその日はディルバの最後の担任としての授業の日だった。


「どうした?」


「いえ、何でもありません。」


休憩時間に入ってすぐにチェルミは屋上へ行き、カリフにすぐ連絡を入れようとしたがディルバに見つかってしまった。


「何かあったんだろう?
カリフに連絡をとるのか?

すぐにテレポートした方がいいことじゃないのか?」



「ううん、連絡だけでいいの。たぶん・・・。」



「たぶんって?」



「だって、ほら・・・。」


チェルミが手をさっと返すと花を握っていた。


「今は朝なのに・・・どうして?」


「術者が殺されてしまったのよ。
私の魔法を夜しか使えなくしていた人が・・・。」



「あっ・・・父君か!」


「私の任務はきっと変化したんだと思うわ。
きっと、ランダルと結婚して純粋種を産むことになってしまったわね。」



「そんな・・・。君はそういうのは好まないだろう?」


「だけど・・・。とにかくカリフにあっちがどうなったのか連絡がきてるはずだから、きいてみないと。」



そして、チェルミがカリフに電話をいれると王が亡くなったと連絡があり、次期国王は長兄の予定だが、妖精王のフラビスが手が付けられずに困っているという話だった。

そして、どうやらフラビスは妖精王だが、混血ではないかという話もとびかっていた。

妖精族は種族がまじりあっていることが多く、人間と結婚して何もできないものも存在しており、能力があるものは超能力の類が使える者が多いらしい。

しかし、妖精王フラビスは瞬間移動を使うことと簡単な魔法を使うことができるらしく、その速さでもって魔法族は魔法を使える方法がなくて困っているらしい。



「なんて厄介な相手が暴れているのかしら。
瞬間移動の上に魔法だなんて。」


「それだけ暴れてしまってたくさんの人を殺めてしまっては、そのフラビスとやらは生き残ることはできないだろうな。」


「ええ。でもはっきりしたことがあるわ。
混血だというなら、あなたへ投与したあの薬でいけるということよね。」


「そうだな。そっか、俺が君を抱えて瞬間移動して時間を稼いで君に魔法を使わせればいける!」


「そういうこと。
でも、ディルバ先生・・・いいの?
失敗したり、能力で押されてしまったら、殺されてしまうかもしれないわ。」


「放ってはおけないだろ。
俺は人間だっていいたいけど、俺のもともとの能力は妖精属のものだ。
妖精族だって、被害は出てるはずだし、俺が何とかできれば!」



「先生、手を貸して。
私、お兄さまやお父様を殺した相手を止めなきゃ!
住むところなんてどこでもいい。
とにかく、平和な故郷へもどしたい。」


「よし・・・明日から春休みだ。
いっちょがんばるか。

で・・・今日は俺も担任最後だし、ゆっくりしよう。」



「ちょ、ちょっと先生!私は・・・」


「俺が何でも君のいうことを素直にきくと思ったのかい?」



「え、ええっ、どうしてそんなこというんですか?
今すぐにでも魔法の国にいってくれそうだったのに。」


「お兄さんもお父さんまでも死んでしまったんだろう?
どうして君はぜんぜん泣かないんだい?

いったいどこでだったら泣くつもりなのかな?」


「それは・・・。」


「最強の妖精族を目の前にして泣くのかな?
そんなことをしたら確実に君が死んでしまうと思うなぁ。

相手が強いヤツなら、それ相応の準備が必要だよね。
君はジェミオの話もしていない。
何か忘れていませんか?」


「あ・・・除去剤だわ。
カリフにもジェミオ何も相談しないでなんて無理だったわ。
私・・・なんて・・・余裕がないんだろう。」


「それが身内がいなくなったということだよ。
まずは祈ること。
そして泣くんだ。死んでしまった祖国を守った人たちのために。」


「俺はカリフとジェミオと相談して、除去剤や敵の数とか把握しておきたい。
カリフを呼び出してくれ。」


「先生・・・ごめんなさい。ありがとう。
ううっ。うぅ・・・。」


「あっ・・・もう泣きだしたら・・・仕方ない。
君は具合が悪いから帰ったことにしておいてやるよ。
道具は持ってきてやるから、ここで泣けるだけ泣いておくんだ。」


「はい・・・ごめんなさい。先生・・・。
先生の担任最後の日なのに。ううっ、ひっく、うううっ。」



「いいよ、俺は。
それより、明日人生最期の日にならないようにしないとな。」


「あっ・・・そうだった。」


がくがく震えながらその日チェルミは学校の屋上から離れることはできなかった。

カリフがたまらずディルバと迎えにきたときには、チェルミは泣き疲れてベンチの上で寝てしまっていた。