不完全な魔女

カリフは疑問をジェミオにぶつけるように言った。


「君は人間だ、しかも純粋種ってことは親戚にも魔法使いや妖精はいないってことだろ。」


「血のつながりはなくても、今の僕がこの研究をできることが人ならざる者のおかげなんだ。」


ジェミオは優しい笑顔を浮かべると、ゆっくり話始めた。


「僕は小さい頃から子どもらしくない子どもだって言われながら大人の中で育ちました。
小学校へ行っても、ときどき先生が答えられないようなことを質問してしまって・・・そういうことがいけないって人の心までは理解できなかったんだ。

それで、いじめられて・・・ときには殴られたり服をひっぱがされたりして、ボロボロになって家にもどってね。
そのときにはもう、僕には両親がいなかった。
小さい頃に事故で亡くなってしまったから・・・。

そんなときにいつもそばで慰めてくれたり、叱ってくれたりしたナニー兼任のメイド頭がいた。
夜眠れないときには、手品だと偽って手のひらにいろんなおもちゃや花を出してくれたんだ。

でもね、僕は彼女が魔法使いのお婆さんに違いないって知ってた。
人が触れても指紋が残るだけのノートのページに彼女が触れると触れた形がそのままピンクに変色したから。」


「おいおい、それってその子どもの頃にもう種族を判別するようなノートを発明してたってことか?」


「あはは・・・そうなるね。公表しちゃうと、マウナが火あぶりにされたら悲しいからしなかったけど。」



「マウナ!!マウナと言ったか?3年前に死んだマウナ・・・が。」


「えっ・・・カリフはマウナを知ってるの?」


「マウナの消息がずっとわからなくて捜してた。・・・カリフは知ってるのですか?」


チェルミとジェミオがカリフに詰め寄ると、カリフは涙を浮かべてジェミオに頭をさげた。



「俺をかばって彼女は亡くなったんだ。すまない・・・。

俺がこの地・・・で魔法の国からの犯罪による追放者を預かったときだった。

慣れないせいもあったが、追放者ってのが最悪だった。
監視システムのきびしい魔法界からわざと飛び出すために、犯罪を犯し、この地にきてから人を殺しまくった。

俺は、監視者として報告したら殺す命令を受けたのに、非情になりきれず、重症は負わせたが逃げられてしまったんだ。

そしてやっと見つけて処刑しようとしたら、そいつは小さな子ども3人を人質
にとったんだ。
ひとりなら、まだ何とか体術でけん制して助けられたが、3人はきつかった。

そのとき、マウナは魔法で子どもたちを救いだしてくれてな・・・犯人を処刑した。

うまくいった祝杯を2人であげて、俺は彼女にお礼を言ってプレゼントをする約束をした。

だが、その約束をしたために彼女は死ぬことになってしまったんだ。」



「どういうこと?殺人犯は処刑したんでしょ?」


「したよ。だけど、共犯がいたんだ。

待ち合わせ場所で俺が待っていたらマウナが10mほど向こうまで笑顔で手をふってくれて・・・。

こっちでの世界の友達だったからうれしくてな。
ハグをして出迎えるつもりで、俺も彼女に手をのばして駆け寄ろうとした途端、彼女の胸ににぎりこぶしの大きさの穴があいた。

あとはマウナが地面に倒れて、穴から出血して血の海になった。
俺はすぐに彼女の胸をえぐったやつを、魔法で爆発させてやったけど・・・もうマウナは返事をすることはなかった。

俺は監視者失格の魔法使いだ。
だから、チェルミの監視者も断ったんだ。
なのに、王様は俺を任命した。

後で知ったことなんだが、マウナは王様の親友の娘で親友が亡くなった後、マウナの親代わりを王様がしていた。人間とのクォーターだったから、魔法の国には入れなかったけど、メールやテレビ電話のやりとりはしていて、監視者として、俺は有能だからと毎度、王様に推薦してくれてたらしい。」



「そうだったの。でも、マウナさんはカリフを助けたことや子どもたちを救ったことは満足してたはずよ。」


「僕もそう思います。
マウナは芯がしっかりした優しい女性です。
だから・・・残念です。

でも、その話をきいたら、ますます彼女の祖国を守りたくなりました。
僕の研究で魔法使いにウィルス感染の予防と治療ができるようにならなければ!」


「なぁ・・・ウィルスの対策はジェミオに研究の成果を出してもらわなければ、どうしようもないが、その厄介なウィルスの出所とか、誰が何のためにまいてるのか?それとも自然にどこかで感染してくるものなのかが不明ってのは気にならないのか?」