不完全な魔女

1時間ほどして、ディルバが目を覚ましてみると、物が何もなくがらんどうな部屋で、チェルミとジェミオが笑いながら話をしているのが見えた。


「あ、無事に目覚められましたね。」


「先生・・・よかった。ジェミオが作ったウィルス製剤のおかげで治ったのよ」



「俺、いったい何でここで寝てたんだ?
あっ・・・足が重い・・・。」


「もう少しすれば、ウィルスの毒素が完全に消えますよ。
あなたもこの部屋の最後のコーヒーを飲んでいってください。

なにせ、引っ越しの最後の仕上げはあなたにかかっているんですから。」



「引っ越し?あっ、思い出した。俺は体中がかっかと暑くなって、暴れずにはいられない気分になったんだ。
そうか・・・あいつのウィルスで。

ジェミオ先生、助けてくださってありがとうございました。」


「まぁまぁ堅苦しくならないで。
お互い、恋のライバルであり、いい友人になれませんかね。
エスパーの友人になりたいんです。

だからお互い先生という呼び方は抜きで・・・どうです?」



「そうだな。じゃあ、ジェミオ。
君はコーヒーを飲み終わった俺をタクシーの運転手にしようと思ってたわけだよな。」


「先生、それは私がその方がって提案しちゃったの。」


「かまわないよ。すごいお世話になったんだから。
俺だって、感染を1発でなおしてくれる博士の友人がいれば安心だし、エスパーだからって人間とかわりなく接してくれるジェミオと友人になれたらうれしいよ。

じゃ、そろそろおふたりさん、俺の腕につかまってもらおうかな。
手をつなぐのは落っことしそうになるから、右と左の二の腕にぶら下がる感じでつかまってくれ。」


「おっけー!お手柔らかに頼む。」


「いくぜ!」




あっという間に3人は新しいジェミオのアパートの部屋へと到着した・・・が!
ジェミオは床に転がって目を回していた。


「すまない・・・早くすんでうれしいけど、酔ったぁ・・・。」


「あはははは、ほんとにジェミオは人間の純粋種だな。
いい反応だよ。」



チェルミはそんなジェミオとディルバをみてうれしくなった。

「私もすっごい天才科学者のボーイフレンドができてうれしいわ。」


「僕はフレンドかい?かわいい魔女の彼氏になって、魔法の国も救えるヒーローになる野望だって持ってるのにさぁ・・・。」


「ヒーローの野望って・・・うふふふ。 見た目からしてらしくないわ。」


「ひどいなぁ。もうひとがんばりすれば、VIP待遇で魔法の国ツアーにお姫様のガイドで行けると思ってたのに。」


「えっ・・・ねぇ、それって冗談ぬきで本当に魔法の国を救うつもりで言ってたの?」


「魔法の国を襲っているのは妖精族の王子で妖精の純粋種。
それを何とかできるっていうのか?」


「ええ。だからもうちょっと時間をくださいって話をしてたじゃないですか。
その王子もね、はたして・・・純粋種といっていいのかどうか・・・。

今、確定していることは、僕の体、つまり人間の体でできあがった抗体は人間がベースとなる混血異種の人には即効性があってうまくいったという事実です。

課題は、妖精と称される種族の体だったら人間の体でできた抗体はどう反応するのか?
魔法使いだとどうなるのか?

混血異種のようにうまくいかなかったらどういう対処をすればいいか。
とにかく実験できればいいが、実験材になってくれる対象なんて・・・いないしねぇ。」


「ねぇ、だったらぶっつけ本番実験なんてダメかしら?

妖精王子に注射しちゃうの。」



「そりゃ、危険すぎる!カリフの話じゃ、俺みたいに瞬間移動するし、動作にかかわる魔法もできるらしいし、体術にも優れている・・・って隙がなさすぎる!」


「うーーーん、近づくだけでも殺されちゃいそう・・・!」


「おい、実験材ならもうゴロゴロいるぞぉ~!」


「あれ、カリフ。どうしてこっちに?」


「ベッドや机が空から向かい側の部屋にポイポイと勝手に入っていけば、気になるのは当然だろ!
魔法を安っぽく使いおって!」


「あははは。カリフ、じじくさいその言い方。
あ、結局いろいろあってジェミオと仲良しのお向かいさんになったのよ。」


「ああ、映像は見せてもらってたから、俺もやってきたんだ。
魔法の国と妖精の森には、ウィルス感染者が王子のせいでもう・・・かなり出てしまっているんだ。

だから実験材はたくさんいる。
暴れたままでも、殺すか殺されるかだ。
やってみる価値はあるはずだ。」


「そんなことになっていたんですか・・・。急がなくてはっ!」


「ジェミオ、君は人間なのにどうしてそんなに俺たちの祖国まで考えてくれる?」