チェルミがカリフの行動を制したこともあって、カリフは渋りながらジェミオを応接間へと案内した。


「ありがとうございます。
率直に先日の事件のことで僕が出した結果について言わせていただきますと、あのウィルスは人間にとっては風邪をひくよりも弱い悪性要素しかもたないウィルスでした。

しかし、人ならざる者にとっては細胞のあちこちを破壊し、感情も脳の機能もめちゃくちゃにしてしまうウィルスです。
大きな声では言えませんが、今のこの世界には見た目人であっても、厳密にいえば人ではない存在が人間と共存しています。

何も問題がなければ、厳密に人ならざる者をどうにかする必要性などないほど、今の世は平和です。
いや、平和だったというべきでしょうか。

先日の犯人の男は、僕が与えた試薬によって記憶喪失は残るものの殺人鬼ではなくなりました。」



「ええっ!ジェミオさん、いえジェミオ先生のお薬でもとに戻ったのですか?」


「はい。僕の研究理論どおりだったと、証明したんですが・・・これを発表するわけにはいかないみたいです。
発表すれば、人間という生き物は人ならざるものに脅威を感じて、それこそ魔女狩りだの、廃絶運動を始めてしまうでしょう。

けれど、あの殺人鬼がどんどん増えるのも阻止しなければならない。
そのためには、人ならざる者の協力がいるってことです。」


「あんた・・・何が言いたいんだ?」


「チェルミさんはどこのご出身の方ですか?

カリフさんはハーフ?それにしては、マジックアイテムをたくさんお持ちのようで。
おっと、僕はあなた方の敵じゃないです。
自分に害が及ばない相手なら、かわいいにこしたことはないと思ってますしね。」


「すぐには答えられません。
科学者の先生って、かわったものがあると切り刻んで研究したがるものでしょう?

私たちは普通に暮らしたいだけだし、難しい事情もあるんです。
だから、ごめんなさい・・・なんでも協力しますっていうわけには・・・いかなくて。」


「なるほど・・・お互いにもっと相手を知る必要があるわけですね。

わかりました。では僕は今日からでも、そこの向かいのアパートに引っ越してきます。
そして、ここにちょくちょくあなた方の顔を見にきます。

なんだったらチェルミさんをデートに誘いたい。」



「おい、てめえ!どこまで図々しいやつなんだ!
チェルミはな、ちゃんと恋い焦がれるナイトがすでにいるんだよ。
そいつが、この前もチェルミを守ってくれたんだ。」


「ほぅ・・・助けてもらったのがきっかけで?」


「違う。もっと前からのつきあいだ。担任の教師だからな。」


「はぁ・・・そういうことでしたか。
しかし、生徒と先生じゃ、おおっぴらにお付き合いはできないでしょう?」


「カリフにいさん!!ちょっと!」


「あっ、しまった。」


「あの、ジェミオ先生。今の話は聞かなかったことにしていただけませんか。
私には出身地はありますけど、ここ以外には今住めないし、担任の先生を私のせいでクビにさせたくないんです。

デートすればいいのでしたら、えっと・・・体の関係を強要されるのではないデートくらいなら・・・私は・・・。」


「ぷっ。はははは・・・ほんとにかわいい異世界人種さんだ。
ご心配なく、お互いを知る理由は、僕の研究をわかってもらって殺人鬼を出さないこととあなたたちの身の安全を確保するためなんですから、普通のデートでいいんですよ。

ランチやディナーへお誘いしたり、映画鑑賞とかショッピングにつきあってもらえればそれでいい。
外出するのが怖いとかお嫌だったら、学校の勉強をみてあげるのでもいいですよ。」


「それじゃ、完全にディルバの恋敵じゃねえかよ。」


「カリフにいさん、私はジェミオ先生とはそんな仲じゃないし、愛しているのはディルバ先生だけです。」


「君の担任の先生が羨ましいな。
彼についても、いろいろと調べさせてもらいたいことがありますけどね。

まぁとにかく、あなた方の仲間ってことでよろしくさせていただければ助かります。」



「勝手にしろ。せいぜい死なないようにしろよ。
俺たちはチェルミを守るために、戦ってるんだ。
あんたを助ける理由はないからな。自分の身は自分で何とかしろよ。」


「はい、わかりました。じゃ、早速引っ越してきますね。」


ジェミオはにこにこ顔で、チェルミの家をいったん後にした。