翌朝、ディルバは隣の家を眺めて愕然とした。

家が一夜にして古ぼけていたからだった。


(まさか・・・!)


「うそ・・・だろ。もう行ってしまったのかよ。」


がっくりしながら、それでも高校へ出勤したディルバは教室の窓ごしにチェルミの姿を見てホッとした。


(学校は続けてくれるんだな・・・。よかった。)


そして、チェルミが職員室の前の廊下を通りかかったときに、ディルバはチェルミに話しかけてみた。


「チェルミ、昨日のことなんだけどな・・・」


「昨日?何か課題でもありましたっけ・・・?」


「いや、課題も宿題もないけどな。」


「そうですか。昨日は兄と家でゲームで遊んでいましたけど・・・何か?」


「えっ!?(チェルミ・・・目が・・・あっ!)

いや、べつにそれならいいんだ、悪い。ちょっと俺の勘違い。」


「そうですか、では。」



(チェルミのいつもの瞳じゃない・・・。あれは、魔法をかけられている。
そこまでやるのか・・・くそっ。)


ディルバはチェルミが他の生徒と何ら変わりのない存在になってしまったことを、よかったと自分に言い聞かせていた。

(20才になれば帰郷する娘なのだから、これでよかったんだ。)



しかし、ディルバの授業中でのこと。



「架空の彼氏、彼女がいるとして、今まさにデートをしている状況を詩にしてみてほしい。

相手の風貌、場所、他いろんなシチュエーションで想像してみてくれ。



じゃ、そろそろ作品を披露してもらおうかな。
そうだな、リムカ、君から読んでもらおう。 自由な発想でどうぞ。」



「はい。 私の彼氏はイケメンではありません。

映画館では寝てるのが当たり前。ポップコーンだけではたりなくて他におかしを3種類は食べます。」



「ストーーーップ!ちょ、ちょっと待て、リムカ。
それは詩じゃないだろ。

それは『私の彼』ってタイトルの作文だと思うぞ。
笑いはとれているが、書いてほしいのは言葉は少なくても状況がスッと心に入ってきやすいポエムだからな。」


「う~~~ん、そんなロマンチックなのは私ダメなんですもん!」


「いや、笑い路線でもいいんだが、ですます。で終われば作文だからな。それはなしで頼むよ。

じゃ、次は、チェルミ。」



「はい。・・・・・ほんとは遠い光の舞台。

くるくるくるくる踊って、笑う。

音の速さで走っては、くるくる踊って見つめ合う。


青い瞳に映る花、どんどん後ろに遠のく花びら。

とっておきの場所なのだと、彼の得意げな笑顔。

手を差し伸べて、手をとって、また突き放す。


離れても、離れても、手をとってくれますか。
月明かりの岩の上。
湖の表面を 足取り軽く踊る2人。

未知の世界へどこまでも、月の光に照らされて

飛び続けたい、いつまでも。・・・・・以上です。」



「・・・・・!!」


ディルバはすぐには言葉が発することができなかった。」


「先生、どうしたんですか?」


生徒の声ではっと我にかえったが、一瞬ディルバは涙が出そうになった。


「ファンタジーな感じだが、場所と2人の様子が漠然としすぎているな。
具体的な地名や踊る以外の動作も欲しい感じだな。よし。じゃ、次・・・」


(チェルミ・・・君の心の声は今しっかりと聞いたよ。
俺との音速移動デートが気に入ってもらえたのは何よりだ。

瞬間移動についてきてくれる彼女は、たったひとり・・・おまえだけだ。
たとえ、俺とのことが消されてしまっていても、俺を気にしてくれなくても、俺は君をきちんと卒業させてやるからな。

見守ることしかできなくても、俺はおまえを忘れることなんてできない!)




それからというもの、ディルバは普通に教師の仕事をこなし、クラスの中もとくにごたごたもなく、平穏な日々が続いた。


しかし、クリスマスをひかえた1週間前、ディルバの心を動かすような事件が起こった。