鬼神の元に近付いたのは久方、左手には一枚の札。依子が言い切るよりも先に、彼は札を鬼神に押し当てた。
手を離すと同時に札は発火し、火は鬼神を包むように燃え上がり、最後は二枚になった札が残った。
「あ……」
札を見つめ、思わず茫然とした呟きを漏らす。
不覚だった。式神同士の戦いとなり、久方の行動を見ていなかった。自らの甘さが招いたこの結果。しかし悔やんでいる暇はなく、依子は袖から札を取り出す。
「おいで──」
そうして呼び出そうとしたところ、シャンッと鳴らされた錫杖に阻まれる。
何かと依子が声を出す前に、先に久方が語り出す。
「正しく三位一体でありまして。一番が欠ければ始まらず、二番が欠ければ続かずに、三番が欠ければ終いは来ず」
久方がそう語る内に、鎌鼬が札に戻り、その札は彼の手に渡る。


