優しく揺り起こされて、ぼんやりと目を開ける。

――ここはどこ?

私の目には、闇しか映らない。


「笹森さん、着きましたよ。」


パチリ、と音がして電気が点いた。
私は思わず、目を眇める。


そして思い出した。

夢じゃなかったんだ。

先生の車の中で、私は眠ってしまった――


「どうしたの。」


先生が、私の側のドアを開けて待っていた。

私はなんだか緊張してしまう。


「行きますよ。」


先生に腕を支えられて地面に足を付ける。
ここは駐車場、なのだろうか。


いつもいつも、想像しては切なさに胸を痛めていた。
苦しい時はいつも、家族に向ける優しい笑顔を思い浮かべて。

それなのに、今私は、その家の前にいて。

先生に連れられていて。


「先生、」


「はい。」


「ほんとにいいんですか?」


その問いに、しばらく言葉を失くした先生だったが、しばらくしてつぶやくように言った。


「いいんですよ。」


その声に、安心した。
何もかも忘れて、先生を頼っていいんだと、そう思えたから。


先生が、大きな黒い傘をさしかけてくれる。
それはまるで、私の姿を隠そうとするかのように。


「雨でよかった。」


そんな独り言が聞こえた。

そして、私と先生は共犯者のように、玄関を目指したんだ――