そういう場所に行ったのは初めてだ。

お店の中にはソファーがいくつもあって、綺麗な女の人がたくさんいて。

それから、酔っ払った男の人もたくさんいた。


「唯。」


母に頭を押されて、反射的にお辞儀をした。

視界には、高いヒールが映っていた。


「連れてきたの?」


「ええ。よろしくお願いします。」


「まだ高校生じゃないの?大丈夫?」


「あと2週間もすれば卒業ですから。」


「そう。」


緊張しながら、恐る恐る顔を上げる。

そこにいたのは、驚くほどきれいな女の人だった。


「あの、……よろしくお願いします。」


おどおどと口にすると、彼女は苦笑した。


「よろしく、唯。私は優妃(ゆき)よ。この店のオーナー。」


「優妃さん。」


「ほんと、大丈夫かしら。」


色気のない私を一瞥して、彼女は去って行ってしまう。
私は、母にどうしたらいいか尋ねようとした。

しかし、さっきまで母がいたところには、誰もいなくて。

見回すと、ずっと遠くのソファーで、グラスを片手に笑っている母の姿が目に入った。



途方に暮れて立ちすくむ。

やっぱり私、ここで働くなんて無理かもしれない。

お酒も飲んだことはない。
男の人と話すのは、得意じゃない。


私は綺麗なドレスを着ていても、濃いお化粧をしていても、やっぱり中身はまだ高校生で。
穢れを知らない高校生だから―――




その時、突然前から来た、酔っ払った人にぶつかられた。

体勢を崩して、後ろに倒れ込む。


「っ!」


ぽす、と後ろから私を両手で受け止めて、見下ろしているスーツ姿の男の人。


「危ないよ。」


その声に、私は聴き覚えがあった―――――