母は、あの時───ドアを開けて、いつもと優しい笑みを浮かべながら言った、あの言葉の続きを口にする。 「……よかったら、私に名前を教えてくれる?」 と。 あの時は、言えなかった言葉を言わなくちゃならない。 もう、逃げないで───後悔、しないように。 俺は、言った。 「……皐月、御影……皐月です」 お母さんは、一瞬驚いたように目を見開いた後───嬉しそうに、目を細めながら言うのだ。 「そう。奇遇ね……。 私も御影八千代って言うのよ───」