「佳乃ちゃん、頼むもの決めた?」

「あっ、うん……。これにする」

「オッケー、それね。俺も決めた」


 メニューに載っている写真を指差すと有川くんはウェイターを呼び、私の分も纏めて注文してくれた。

 注文を確認したウェイターが去ると、2人の間に沈黙の層が出来る。
 さっきまでのメニューを見ていたときとは、また少し違った空気。

 何か話した方が良いのかなと思うのに、いざ有川くんを前にすると、言おうとしていたことも全部頭の中から抜け落ちていた。

 誤魔化すようにお冷やのグラスに口をつける。


「佳乃ちゃんって今、大学に通ってんの?」


 空気を先に揺らしたのは、有川くんだった。
 テーブルの上で腕を組み、好奇心溢れる瞳で私を見ている。

 私に質問してくるときは、いつもこんな瞳だったなあ。

 それが懐かしく思えて、いつしか緊張していた身体の力がふっと抜けた。


「うん、そうだよ。今、2年生」

「へえ。もしかして、K大学?」

「うん。よく分かったね、K大学って」

「だってこの辺でレベルが高そうな大学って言ったら、K大学ぐらいだしな。賢い佳乃ちゃんがこの辺で行くなら、絶対あそこだって思ったんだ」

「私、賢くはないと思うけど……」

「いやいや、十分賢いって!」


 語気を強めて言う有川くんに圧倒されて、苦笑いを返すしかなかった。

 有川くんの言葉は、もしかするとお世辞なのかもしれない。
 だけどそういう感じのイメージを私に抱いていることは間違いないと、強く言い切る姿を見て思った。

 自分では、全然そんな風には思っていないけど……。


「有川くんは、あのヘアサロンで働いてるの?」


 有川くんに代わって、今度は私が質問をする番だ。

 あの頃も有川くんのことはあまり知らなかったけど、今の方がもっと彼のことを知らない。
 だから余計に、聞きたいと思う気持ちが大きかった。