まわりを道行く人たちも何も気にならない。

何も聞こえない。


二人だけしか存在しない世界にいるような気分に浸っていた。


「今日はもう遅いから送ってく…。葵、明日仕事あるだろ?」


そう言って、まるで小さな子供をなだめるように、私の頭に手をのせた。


幸せの余韻は、すぐさま別れの切なさに変わった。


「…う…ん」


寂しい気持ちを押し殺して頷く私。


「あっそうだ。今度の休み、バイクで迎えに行くからさ。
昼にデートしよっか?」


「ほんとに?」


寂しさを一瞬で吹き飛ばしてくれる誘いに、すぐに笑顔になった。


「ほら、約束」


斗真は私の顔の前に小指をさし出した。


小指と小指が絡み合うのを瞳で確認しながら

私はまた斗真に会える事の喜びに浸っていた。