私と香織は病室に戻った。

一瞬、私の姿を見た斗真の表情が曇ったように感じた。


知らない女が泣いて出ていったかと思うと、また戻ってきたのだから仕方がない。


それでも、笑顔で普通に話すなんてやっぱり出来なくて、斗真のそばには近づけなかった。


「葵ちゃん、そんなとこつったってへんと、こっちおいで」

そんな私にリュウさんが優しく笑って手招きする。


「葵ちゃん

こいつ、何でここにいるのかも覚えてないらしいで。

ほんの短期間の記憶だけがないみたいやから…

俺の記憶も高校の時の事だけ。
な?斗真?」


「あっそうっすね…」


「…そのうち思い出すよな?

お前が思い出さんかったら、葵ちゃんは俺がもらうからな!」


リュウさんの淡々とした説明と冗談のおかげで、病室の中は少しだけやわらいだ。


斗真も少し笑ってた…

笑顔は全然変わってないのに…


変わったのは…

きっと、私に向ける瞳だけ?