エリカの手首の傷はそれほど深い傷ではなく、少しほっとした。

うつ向いたままのエリカの手首を消毒してゆっくり包帯を巻いた。

二人とも無言だった。

さっきまでの事が嘘のように静まり返る部屋の中

かけてやる言葉が見つからなかった…。


俺が立ち上がろうとしたその時


エリカが俺の手を握ってそれを制止した。


「どこにも行かないで…」

「……」

「嘘なの…」

「えっ?」

「あの夜の事…
ほんとは何もなかったの…
ただ、斗真を誰にも渡したくなくて…

でも忘れるから…
斗真の事ちゃんと忘れるから…。
だからもう少しだけ一緒にいてほしい…
…お願い…」

エリカから出された最後のお願い?

断る事は許されないような…

俺の選択肢は多分なし。

そんな状況下にあった。