「…理屈じゃないんだよ。好きで、どうしようもない」
目を見開くあたしに、彼は続ける。
寂しい寂しい、表情をして。
彼は優しく、穏やかに、笑う。
「…その人の、誰より大切な人になれたら、それだけで幸せだろうね」
………うん。
うん、うん。
きっと、幸せだ。
大切な人の大切な人になれたら、それだけで。
……きっと誰より、幸せだ。
「…慎也!」
トモの声に、ハッとする。
横断歩道を渡ってきたトモと利乃が、こっちへ走ってきていた。
それを見た瞬間、池谷くんの手がパッと離れる。
それにドキッとして、胸が痛んだ。
トモはあたし達を見て、はぁ、と息を整える。
焦ったような顔をして、唇を噛んでいた。



