「…池谷くんは、辛くないの?叶わない人のこと、想い続けるの」
…また、暑さのせいかな。
それとも、彼の瞳がまた、どこか遠くを見ていて。
寂しく、感じたからだろうか。
こんなことを、訊いてしまうのは。
「………うん」
彼は、つぶやくように返事をする。
無遠慮なあたしの言葉にも、彼は怒りもしない、悲しみもしない。
ただただ、諦めたような瞳で。
あたしは、なんだか泣きそうになった。
『海になりたい』って言った、彼の瞳が脳裏に焼き付いてる。
…悲しい恋を、してるんでしょう。
「…自分が、その人の『大切な人』になれないなんて、そんなの苦しいじゃん……」
唇を噛んで、池谷くんを見下ろす。
そんなあたしを、彼は目を細めて見つめた。
そして、こっちへ手を伸ばして。
…そっと、あたしの頬に触れた。



