「じゃあね、ありがとう」
そう言って、あたし達に背を向けて歩いて行った。
「………」
残されたあたし達の間に、沈黙がおりる。
少し丸まった女性の背中を見つめながら、立ち上がってあたしは口を開いた。
「……大切な人を失うのって、どんな気持ちなんだろう」
怖く、ないのかな。
それまで一緒にいてくれていた大好きなひとが、目の前から消えていくなんて。
考えただけでも怖くて、恐ろしい。
池谷くんはしゃがみこんだまま、「辛いよ」とまっすぐな瞳をして言った。
「…心の中に、穴が空いたみたいになる」
……池谷くんは、そうなったんだ。
あたしの知らない、過去に。



