「………ねえ」
ペットボトルの水を飲んだあと、待ってくれている池谷くんに、声をかけた。
「……いつも、窓から何見てるの?」
窓際に座る、池谷くんは。
ときおり、授業中に窓の外を眺めている。
雨を見ているのかと思っていたけど、違った。
現に快晴な今日も、彼は窓の外を見ていたから。
池谷くんはあたしをじっと見て、そして静かに、目を伏せた。
「…海、見てる」
木漏れ日が、彼に覆いかぶさる。
あたしは目を見開いて、それを見ていた。
…海。
そうだ。少し遠いけど、うちの教室からでも見えるんだ。
この町の、海岸が。
……前にも、彼は。
「……『海に、なりたい』って」
言って、た。
あたしの口からこぼれた言葉に、池谷くんは優しく笑う。



