「ハハ、なにその顔。おはよ、トモ」
…でもいい奴、なんだよなぁ。
「…ん。おはよ」
「なんか元気なくない?」
「別に、なんでもねーし」
ツンとして唇を尖らすと、軽く笑われる。
その顔を見ながら、ため息をつきたくなった。
…やっぱなぁ。
麗奈ちゃん、慎也くらい誠実な奴と会っちゃったら、もう駄目だろうなとは思ってたけどさ。
雨の日、ふたりが一緒に帰ったって聞いた時、焦った。
麗奈ちゃんが、ものすごく可愛らしい顔をしてたから。
あ、やべえなって、思った。
とられるって、…思った。
ちら、と麗奈ちゃんの方を見る。
彼女は窓の外を眺めながら、ときおり利乃ちゃんの話の相槌を打っていた。
外は、小降りの雨が降っている。
もう、梅雨が明ける時期だっていうのに。
サー…と、雨音が聞こえる。
耳を澄ませながら、一年前の麗奈ちゃんの言葉を思い出した。
『急かされるのに、疲れたなぁって思ったら、たまに空を眺めるの。なんか、落ち着くんだよね』
…雨を眺めて、落ち着く。
今、そうさせているのが俺なんだと思うと、不思議な感覚がした。



