「慎ちゃんもー?あっ、私オレンジジュースがいい!」
「『いい』ってなに。おごれってこと?」
「えー、おごってくれないの?」
「むーりー」
楽しそうに会話をするふたりは、まるで恋人同士みたいだ。
昼頃に少しの時間降ってきた雨のせいで、至る所に水たまりができていた。
青空が、反射して映っている。
あたしの隣で、トモが息をついてその場にしゃがみこんだ。
「…ホント仲良いよなぁ、あのふたりは」
目を細めて利乃と池谷くんを見つめるトモに、「…うん」と返した。
「…中学の頃から、あんな感じなの?」
「まあね。常に一緒にいたわけじゃないけど、なんかこう、他人が入りにくいような、二人だけの空気があったっつーか」
…ああ、わかる気がする。
池谷くんが『利乃』と呼んで、利乃が『慎ちゃん』と呼ぶ。
それだけで、ふたりがどれだけ仲がいいかわかるんだ。
お互いの名前を呼ぶ、その声が。
すごく、すごく大切な響きに感じるから。