「……っ慎ちゃん!」
叫ぶと、彼は驚いて振り返る。
私を見上げて、目を見開いた。
「やっぱり、ここにいた。…あーあ慎ちゃん、『約束』破っちゃった。ふたりで行くって言ったのに」
ふざけるようにそう言って、私は階段をおりて砂浜へと足をつけた。
テトラポットへと歩いていく私を、慎ちゃんは眉を寄せて見ている。
「…利乃、なんで」
「来たくなったの」
砂に足をとられながら、テトラポットに座る彼の前に立つ。
目を合わせて、私は精一杯に微笑んだ。
「…来たくなったの。最後に、慎ちゃんと」
最後。
自分の口からこぼれた言葉は、思いのほか私の胸に突き刺さった。
慎ちゃんの瞳も、見開かれる。
朝の太陽が照らして、海が白くキラキラと輝く。
最後の夏の風が、私の髪を揺らす。
私は泣いてしまわないように堪えて、「あのね」と言った。
「…大嫌いなんて、嘘だよ」
…嫌いになんか、ならないよ。
私だって、私だって。
「…私だって慎ちゃんと、ずっと一緒にいたかったよ」
声が、震える。
慎ちゃんが眉を寄せて、苦しげに私を見つめる。