熱いコンクリートの坂を、駆ける。

彼の家を訪ねてみたけど、やっぱりいなくて。

…もう、あの場所しかない。


ふたりきり過ごした、『約束』の場所。


私はぎゅっと手のひらを握りしめて、息を小さく吸った。

そして、青がどこまでも広がるあの場所を見つめる。


「……慎ちゃん」


つぶやいて、私は駆け下りた。

久しぶりに通るこの道は、懐かしくて。

…君も、思ったかな。

懐かしいと、思ったのかな。


息を切らして、堤防から砂浜を見下ろす。

…そして、見つけた。

あの頃と同じ、テトラポットに座って海を眺める彼。

懐かしい、潮の匂い。

あの頃と変わらない景色で、海は私の前に広がってる。


…ああでも、あの頃とはやっぱり、少し違うね。

ここから見える君の背中は、あの頃よりずっと広くて。

背だって髪の長さだって、違う。

……もう戻れない、あの夏。


それでも私は、もう一度。


君と手を離すために、手を繋ぐ。

この夏の終わりに、もう一度あの夏へ帰るんだ。