『悲しい』って感情を、共有できない。
それがどれだけ大きな溝になるか、あたしはもう知ってるんだ。
「…慎也も利乃も、苦しいって言ってくれないんだもん。だから、怒っちゃった。…あたし、失敗したのかな」
わかん、ないな。
ふたりじゃないから、ふたりの気持ちなんかわかんない。
当たり前のことだけど、それがこんなにも切ないなんて、思わなかった。
トモは何も言えずに、黙っている。
目を伏せて、どうしようない事実を、静かに受け止めている。
…きついね。
大切な人と分かり合えないって、こんなにも辛いんだね。
「…でも、あたしが辛いって言ったら、絶対ふたりは心配してくれるんだよね。…優しいから」
「うん」
「…ふたりの負担にだけは、なりたくないな」
大切だから、頼って欲しくて。
けど、いざ自分が辛くなると、負担になりたくないと思う。
だから、何も言えなくて。
…あ。
そこで、あのふたりもそうなんだと思った。
だから、何も言ってくれないのかな。
あたしとトモのことを大切に思ってくれてるからこそ、何も言えないでいるのかな。
それってなんか、切ない。
大切に思ってるからこそすれ違うなんて。



