「あたしはっ…利乃から慎也、奪えなかった!わかってるでしょ、慎也の好きな人!」
利乃の瞳が、揺れる。
何も言えなくなった彼女を見て、言ったことを後悔した。
けど、もう抑えられなくて。
あたしは、声にしてしまった。
いちばん言っては、いけないこと。
「そうやって何も言わずに嘘ついてさぁ!…ずるいんだよ、利乃はいつも!」
…言ってよ。
嘘なんかつかないで、ちゃんと言ってよ。
苦しいとか寂しいとか、ぜんぶぜんぶ。
…言ってくれないのは、ずるい。
何も言わずに笑っているのは、ずるいんだよ、利乃。
利乃の瞳が、苦しげに揺れて。
その唇からは、震えた声が出た。
「…れな、ちゃん」
「…ごめん。話したいっていうのは、諦めるって言いたかっただけだから。……今日はもう、帰るね」
シャワーありがと、と言って、カバンを持つ。
足早に利乃の横を通り過ぎて、リビングを出た。
「…麗奈ちゃん!」
靴を履く途中で名前を呼ばれたけど、振り返らなかった。
「…お邪魔、しました」
それだけ言って、扉を開ける。
パタンと閉めて、あたしは駆け出した。
パシャンと跳ねる、水溜り。
反射して見える青い青い空が、悔しい。



