「…うん、ちょっとね。…あ。それと、あたしさっきの雨で髪びしょびしょになっちゃってさ。タオル貸してくれる?」
『えっ、それはもちろんいいけど…もお、何してんの麗奈ちゃんっ。風邪引いちゃうよ〜』
「アハハ、雨に濡れたい気分だったのっ」
『なにそれぇ〜』
いつも通りの、会話。
それなのに、こんなにも心地よく感じるのは、なんでなのかな。
家へつくと、利乃は心配してシャワーを貸してくれた。
雨で冷たくなっていた身体が、温まる。
あたしの髪は短いから、すぐに乾いてきた。
リビングへ入ると、利乃が冷たい麦茶を用意してくれていた。
「わ、ありがとー」
「はーい」
麦茶を飲みながら、リビングを見渡す。
母親はきっと、仕事に行っているんだろう。
「…それで、話したいことって?」
リビングのソファに座って、麦茶が揺れる透明のガラスを見つめる。
利乃は近くのイスに座って、こっちを見た。
あたしは「…うん」と返事をして、手のひらを握りしめる。
一度深呼吸をして、そして「あのね」と言った。
「……慎也のこと、諦めようかなって」
そう言ったとき、利乃の顔は見れなかった。
少し経っても返事がなくて、ちらりと利乃の方を見る。
……彼女は呆然として、あたしを見ていた。



