「…り、利乃!?どした…」
「お母さんがぁっ」
私の声が、廊下に響く。
彼のシャツを涙で濡らしながら、嗚咽を漏らして言った。
「お母さんがぁっ、幸せって言ったの。今、幸せって言ったんだよぉ…!」
うわぁあぁん、と子供のように声を上げて、泣いた。
慎ちゃんは目を見開いて、そしてそっと抱きしめてくれる。
仕事でまだ帰ってきていない、彼のお父さん。
寂しいこの家の中があの頃を思い出させて、さらに涙が溢れてくる。
…お母さん、お母さん。
わたし、ずっと寂しかったよ。
苦しくて苦しくて、どうしようもなかったよ。
でも不思議なくらいに、お母さんが掴もうとしている幸福を、邪魔する気にはなれないんだ。
だってその幸福のなかには、いつだって私がいるから。
私が生まれて、健康に生きて、笑っている。
お母さんの幸福のなかにはきっと、そんな私が必要だから。
私はやっぱり、笑っていなきゃいけないね。
こんなにもお母さんの『幸せ』の言葉が、私を安心させる。
よかった、よかった。
お母さんが幸せになれて、よかった。



