「……うん。じゃあお母さん、寝るから。…利乃も早く、寝なさいね」
その言葉へ、返事はできなかった。
今にも喉の奥から、嗚咽が漏れてしまいそうで。
お母さんが、二階へ上がっていく。
私は携帯を取り出して、電話をかけた。
…まるで、衝動。
それでもあの頃の私達には、当たり前のことだったから。
『…はい』
やっぱり君は、出てくれる。
私がいつ助けを呼んでも、いいように。
「……慎、ちゃん」
こんな風に涙声で、その名前を呼ぶことができるように。
「玄関の扉、開けてて」
彼は私の言葉を聞くと、何も聞かずに『…わかった』と言った。
私はリビングを出て、廊下を歩いて、靴を履く。
そっと玄関の扉を開けると、隣の家へ走り出した。
彼の家の玄関の前につくと、ちょうど良く扉が開く。
彼は心配そうに瞳を揺らして、私を出迎えてくれた。
「何があったんだよ、利乃…」
けど。
私は何も言わず、その胸へ飛び込む。
慎ちゃんが目を見開いて受け止めてくれたけど、後ろへドサリと倒れこんだ。



