例えば週に一度くらいに、家に帰ると用意されていた夕飯とか。
朝起きたら台所に置かれている、食べ終わったあとの食器とか。
…確かにそこに、お母さんがいた跡が。
ちゃんと、あったから。
私は、ひとりじゃなかった。
お母さんとふたりで、暮らしてきたんだって。
そう、思えるから。
「………そっか」
痛む喉を抑えて、滲みそうになる涙をこらえて、つぶやく。
コップをぎゅう、と握りしめた。
…『幸せ』、なんだね。
お母さんは今……幸せ、なんだよね。
「そっかぁ……」
そう言って、私はへなりと笑った。
ああ今、私。
すごくすごく、安心してる。
今まで抑えていた色んなものが、溢れ出してしまいそうなくらいに。
肩の力が抜けて、崩れてしまいそう。
あの頃、私のせいで泣いていたお母さんの後ろ姿が、目に焼きついている。
私はその背中へ、なぐさめの言葉をかけることはできなかった。
けどもう、いいんだね。
お母さんは今、色んなものを抱え込んだその肩を、抱いてくれる人がいるんだね。
…慎ちゃん。
慎ちゃん、慎ちゃん。
今、すごくあなたに会いたい。



