私が本当に望んでいるのは、そんなことじゃなくて。
ずっと、見ていて欲しかった。
いつだって笑おうと努力していた私の弱さに、気づいて欲しかった。
家でひとり、食べる夕食も寂しかった。
…でも。
でもね、慎ちゃん。
「………お母、さんは」
少しだけ震える声と、不安な心が私の瞳を揺らす。
優しく笑うお母さんを見て、喉の奥が痛むのを感じた。
……あのね。
私が本当に、望んでいるのは。
「……今、幸せ…?」
ボールペンが、ぴたりと止まる。
下を向いたお母さんの目が、少しだけ見開かれた気がして。
私は、震える手でコップを握る。
お母さんはやっぱり、私の方は見ずに。
……心の底から安心したような顔で、柔らかく、笑った。
「………うん。幸せ」
………ああ。
私はずっと、この言葉が聞きたかったんだと思った。
私のために、毎晩心を削って働いていたお母さん。
きつくない、はずはなかった。
苦しくない、はずもなかった。
お父さんが家へ帰ってこなくなって、家には私とお母さんだけになって。
いつも私は、家にひとりきりでいたけど。
…それでも寂しくなかったのは、ここにちゃんともうひとり、家族がいると知っていたからだ。
自分の他に、帰ってくるひとがいるとわかっていたからだ。



