「……三年前。会社の取引先でね、偶然に」
……そんな、早くに。
ぎゅ、とコップを握りしめ、三年前のことを思い出す。
心当たりがないわけじゃ、ないけど。
「……付き合い始めたのは、いつから?」
「そうねえ、一年…半、前くらいかしら」
「……お母さん、あの人のこと、好きなの?」
「好きじゃなかったら、利乃に紹介なんてしてないわ」
私はその言葉に、胸を痛める。
…お母さんが私に男の人を紹介したのは、あの人が初めてだ。
それくらいに、本気で。
心の底から、好きってことで。
お母さんはやっぱり家計簿から目を離さすことなく、穏やかに微笑んでいる。
その顔には、日頃の疲れがあらわれていた。
私はコップを見つめて、思い出す。
毎日、家を空けて仕事に出ていたお母さん。
毎日、私が憧れる綺麗な見た目をして、外へ出かけていたお母さん。
…どんなに忙しくても、月に一度は私のために休みをとってくれていた、お母さん。
『今の、利乃の気持ち。ちゃんと、言いなよ。おばさんにさ』
…うん。
言いたい、けど。
でもね、慎ちゃん。私、思うんだ。



