二階の廊下で立ち止まり、息をする。

ぎゅっと目をつぶって、バクバクと激しく脈を打つ心臓を抑えた。


…だめだ、緊張してどうにかなりそう。

こんなのが、しばらく続くのかな。

大丈夫なのかな、私。

そう思ったとき、慎ちゃんの言葉が頭をよぎった。


…『今の、利乃の気持ち。ちゃんと、言いなよ。おばさんにさ』


…言えないよ、やっぱり。

言えるわけないよ、ふたりのあんな顔、見ちゃったら。


挨拶を返したときに見えた、あの人の嬉しそうな顔。

お母さんの瞳には、涙さえも浮かんでいたような気がして。

…胸の底が、灼けるような感覚だった。

恥ずかしくてむずがゆくて、息が詰まるような。

そんな、かんじ。


頭の中がごちゃごちゃして、いろんな感情が行き交って、おかしくなりそう。

あの人がいる生活に、怖いと感じる私もいる。

慎ちゃんから離れるためにも、我慢して耐えなきゃいけないと思う私もいる。


…どうすればいいのか、わかんないよ。