『…慎也、落ち着いて』
『俺は落ち着いてるよ!大体、東京ってなんだよ。受験は?友達は?俺のことも考えてよ!』
慎ちゃん。
声を出したくて、出せなくて。
残ると言ってきかない彼を見て、私は呆然とした。
…今、慎ちゃんを動かしているのは、間違いなく私だ。
それがわかるから、嬉しくて。
すごくすごく、苦しい。
…ダメだ、と思った。
私が、慎ちゃんをダメにする。
私がいれば、慎ちゃんは前に進めなくなる。
ご両親から逃げて、向き合えないまま。
こんなにも優しい、男の子が。
いつもいつもそばにいてくれた、大好きなひとが。
…私の、せいで。
『慎ちゃん!』
ビク、と。
慎ちゃんの口が、閉じた。
目を見開いて私を見つめるその顔は、信じられないという思いに染まっていて。
…胸が、痛む。
苦しいよ。
私だって、苦しいよ。
でも、でも。
私は震えそうになる声を抑えて、言った。



