ちょうどその頃、私の母親もまた、何日も帰ってこないことが続いて。
どんどん不安定になっていく私は、ついこぼしてしまった。
『慎ちゃんが東京に行ったら、私はどうしよう』と。
私の言葉を聞いた彼は、悔しそうに唇を噛んで。
私がハッとして気づいた頃には、もう遅かった。
いつものように、夜、ベランダ越しに会話をしていた私達。
慎ちゃんはもう、ベランダから姿を消して、階段を駆け下りていた。
私が急いで彼の家を訪ね、戸惑うおばさんに構わずリビングの扉を開けたとき。
『……の、こる』
…震えた声が、響いていた。
『ここに、残る!ひとりで、残る…!』
普段声を荒げることのない慎ちゃんが、まるで我慢していた想いを吐き出すかのように、叫んだ。
ご両親は驚いた様子で、慎ちゃんを見ている。
リビングのソファに腰かけていた父親は、慎ちゃんを見て眉を寄せた。
『…なに、言ってるんだ。ひとり暮らしなんか、お前にはまだ』
『できる!料理も家事も、俺は今までいくらだってやってきたんだ!』
…慎ちゃん。
慎ちゃん、慎ちゃん。
リビングの扉の前で立ち尽くす私の横で、おばさんが眉を下げて慎ちゃんをなだめる。



