ありがとう、と笑う私を見て、トモくんは「うん」とだけ答える。
彼の伏せられた長いまつげを見つめて、私は目を細めた。
窓から風が吹いてきて、窓の外へ視線を移す。
…彼と過ごしたあの海が、見えた。
「……利乃ちゃんこそ、じゃん」
トモくんの声にハッとして、見下ろす。
彼は私とまっすぐに目を合わせて、怒ったような顔をした。
「…利乃ちゃんこそ、きついって言ってくんなきゃ、わかんねーよ。…わざと、隠してるんだろうけど」
……前に私が彼に言った、言葉。
嘘つきが漏らす、本当の気持ち。
『トモくんがちゃんと苦しいって伝えなきゃ、みんな気づいてあげられないんだからね!』
…大切なひとに、見破られたくなかった気持ち。
ふと、トモくんが私へ手を伸ばす。
びくりとして後ずさる私の手首を、トモくんはしっかりと掴んだ。
その指は、私の目元を拭う。
見れば、その指先は薄っすらと濡れていて。
それが私の涙だと理解するまで、数秒かかった。



