教室の扉のそばで、麗奈ちゃんと慎ちゃんが廊下を歩いていく、後ろ姿を見つめる。
私の隣には、前と同じようにトモくんがいる。
茜色に染まった空を見上げて、長いまつげを伏せて黙り込む彼の隣にいた、あのとき。
…けど、たぶん。
今、泣きそうになっているのは、私の方だ。
「…利乃ちゃん」
ずっと扉のそばでふたりを見ている私の手を、トモくんが引っ張る。
教室の中へ入って、ふたりの姿は視界から消えた。
私とトモくんしかいない、寂しい空間。
教室の窓に、青空の雲が映っている。
黙って窓側の席にドカリと座るトモくんを見て、なんだか笑ってしまいそうになった。
…あのときと、逆だね。
「…トモくん、わざとだよね」
彼の前に立ってそう言うと、トモくんは視線だけをこっちへ動かした。
開いた窓から、風が吹き込んでくる。
さわさわと、トモくんの短い髪を揺らした。
「…なにが?」
「今朝。麗奈ちゃんが慎ちゃんにおはよって言ったとき」
慎ちゃんが、『おはよ』って返して。
麗奈ちゃんが、嬉しそうに笑う。
そのときの私の表情を見て、トモくんは目を伏せた。
そして、わざと邪魔をするような形で、麗奈ちゃんの耳元で言ったんだ。



