『……いいよ。見つかってよかった』
寄せては返す波が、ザァ、ザァ、と静かに音を立てる。
前を向き続ける俺に、利乃はふふっと笑った。
その手のひらには、大事そうにブレスレットが収められている。
そういえば、普段ブレスレットなんてしてたっけ。
『……つけないの?それ』
訊くと、利乃は微笑んで『うん』と言った。
そっとブレスレットを口元に添え、口付けをするように目を閉じる。
利乃の髪が、夜風に揺れる。
俺は目を細めて、その姿を見つめた。
『ママがね、大人になったらつけなさいって。わたしが、これが似合うくらいに綺麗になって、素敵な女の人になれるようにって』
……何度か、利乃の母親と会ったことがある。
初めて挨拶した時から、利乃の母親は他の同級生の母親とは違っていた。
赤い口紅をひいて、優しく微笑む。
水商売と聞いて浮かぶような、派手な服装をしているのは、見たことがなかった。
独特の低い声をして、質素な服を着て。
決して裕福ではないはずなのに、利乃には可愛らしい洋服をたくさんに買ってあげていた。



