『ママがぁっ、お仕事休んで、いっしょに出かけてくれたの!わたしのために、買ってくれたの!あきらめられるわけ、ないでしょぉっ……』
うわぁぁぁん、と声を上げて利乃が泣く。
可愛らしい洋服を汚して、足を濡らして。
俺は、ぎゅっと手のひらを握りしめた。
階段を降りて、砂浜へ駆け出す。
海の青が太陽を反射して、眩しい。
潮風が、髪を揺らした。
『…っ利乃ちゃん!』
彼女のそばで立ち止まり、息を整える。
利乃は涙に濡れた頬で、驚いたように俺を見ていた。
『……慎也、くん、なんで』
『俺も探す!』
大きな瞳が、さらに見開かれる。
驚きで、涙まで引いたみたいだった。
『……でも、危ないって』
『そうだよ、危ないんだよ!だから、ふたりで探すの!どっちかが助けられるように!』
怒ったように見つめる俺に、利乃はいつものように笑うことはしなかった。
瞳を潤ませて、唇を噛んで。
目をぎゅっと閉じて、涙を流しながら。
か細い声で、『…ありがとう…』と言った。



