『利乃ちゃん!』
大声で呼ぶと、ハッとして顔を上げる。
…その目には、うっすらと涙がにじんでいた。
『……慎也、くん』
『なにしてんの、危ないよ!』
彼女が今立っているのは、寄せてきた波が足元をつからせる場所だ。
そうでなくても華奢で小さな身体をしてるのに、そんなところにひとりでいるのは、俺たちの年齢ではあまりに危険だ。
利乃は俺を見上げて、『探してるの』と大声を出した。
『あの子達に、わたしのブレスレット、投げ捨てられたの。だから、探してるの!』
……探してる、って。
『海の中に落ちたんなら、もう無理だよ!見つかりっこない!』
『わかんない、砂浜に落ちたかもしれないじゃん!』
『でも、危ないよ!諦めたほうがいい!』
『絶対あきらめない!』
強い声で、そう叫んだ利乃の瞳には、じわじわと涙が浮かんでいた。
『ママにっ、誕生日に買ってもらったんだもん!大事にするって、約束したんだもん……!』
唇を震わせて、利乃は大きな瞳からボロボロと涙を流す。
…その姿は、とても年相応に見えた。
弱々しくて、今にも崩れてしまいそうで。



