俺はそれを見て、この子は誰よりも強いんだと思った。
生まれ持ったその愛らしい容姿を自分のものにして、戦っている。
……彼女が周りと違っていることは、初めて会ったときからわかっていたけど。
この子はたぶん、自分なんかよりずっとたくさんのことを思い、考え、生きているのだろうと思った。
その日、俺はいつも通りに利乃と帰った。
彼女は、後藤リエの母親と話したことに関して、何も言わなかった。
ただいつも通り、明るく話しかけてくる。
そこにはやっぱり、笑顔があって。
『じゃあねっ、バイバイ!』
『うん。バイバイ、利乃ちゃん』
自分の家へ帰っていく、彼女を見送る。
もちろんその家のガレージに、車は止まってない。
…利乃の父親は、滅多に帰ってこないという。
働いているのかも、わからないらしい。
利乃の母親は、会社勤めに加え、空いた時間は水商売。
母親すらも帰ってこないような日がある家で、利乃はひとり、今日も留守番をするのだ。
俺は自分の家の門を開け、扉を開く。
すると案の定、リビングへ通じる廊下まで、すすり泣く声が聞こえてきた。



