『ほら、慎也。お隣に住む栗原さんよ。挨拶しなさい』


利乃が俺の家の隣に越してきたのは、小学校に入学する少し前だった。

大きな目とふわふわした長い髪を揺らして、じっと俺を見てくるその女の子。

その睨むくらいの強い視線に、はじめ俺は怖気づいていたのを覚えてる。


『利乃ちゃんは、うちの慎也と同い年ですってね。同じ小学校じゃないの〜、よろしくね?』


穏やかで表情豊かな母は、小学校入学前の子供を持つには少し若すぎる利乃の母親にも、ニコニコと笑って接した。

『はい、よろしくお願いします』

赤い口紅が印象的な利乃の母親は、俺を見て『慎也くん』と呼んだ。


『利乃と、仲良くしてね』


機嫌が悪いのか、利乃は少しも笑わずに俺を見てくる。

けど、母親が『ほら、慎也くんに挨拶して』と肩を軽く叩くと、驚くほど表情を変えた。


『ふふ。わたし、栗原りの。よろしくねっ、慎也くん!』


花が咲かんばかりの笑顔で、俺にぺこりとお辞儀をする。

その変わりようと、この年の子供にしてはあまりに完璧な無邪気さと可愛らしさに、俺は若干の恐怖を覚えた。

まるで、作ったかのような笑顔と声。

……可愛い、子だけど。

なんか……変な、子だ。