「楽しかったよ」
…彼はきっと、怒っている。
私がわざと、慎ちゃんと麗奈ちゃんをふたりきりにしたこと。
私は直前まで、彼に夏祭りへ行くと言っていたから。
「ふふ。麗奈ちゃん、浴衣だったでしょ。あーあ、私も見たかったなぁ。あ、ビニールシートは活躍した?」
「…おかげさまで」
ニコニコと笑う私に、慎ちゃんはやがてため息をついた。
そして右手に持っていたものを、ベランダ越しに差し出してくる。
「ん」
…赤くて丸い、飴玉。
甘い水飴の部分をかじれば、白い林檎が顔を出す。
それを見て、私は思わず笑ってしまった。
「今年も、買ってきてくれたんだぁ」
ありがと、と笑って、りんご飴を受け取る。
私と慎ちゃんの家のベランダはとても近くて、会話がすんなりとできてしまうほどだった。
ビニール袋に包まれたりんご飴を見て、目を細める。
そんな私を見て、慎ちゃんは「…今年は」と言った。
「…麗奈もいるから、てっきり行くんだと思ってたよ」
「私だって行きたかったよ」
一呼吸も待たずに言った私を、慎ちゃんは驚いたように見つめてくる。
私は目を伏せて、りんご飴を見つめた。
…行きたかったよ、みんなで。



