土手へ行き着いた頃には、草の緑色が見えないほど、たくさんの人で埋められていた。
「…座るとこ、なさそーだね」
数個残ったたこ焼きの入ったパックを持って、あたしは苦笑いをする。
河川敷に立ったまま見ることになりそうだなぁと思っていると、慎也が「んー」と何か考え始めた。
「俺、よく見えるとこ知ってる。そこなら座れるし、行く?」
「あ、行きたい…けど、あと二分で花火始まるよ」
「でも、座れないときついだろ」
慎也が、あたしの足元を指さす。
…さっきから、ちょっとだけ痛んでるの、気づかれてたみたいだ。
「花火なら、歩きながらでも見れるよ」
「…そうだね。ありがと」
彼がもう一度あたしの手をつかんて、歩き始める。
慣れたその手のひらの形に、あたしは目を細めた。
…いつまでも、繋いでいれたらいいのに。
そうすれば、慎也がちゃんとここにいるって、思える。
河川敷に立って花火を待つ、たくさんの人の間を通る。
彼に手を引かれてたどり着いたのは、河川敷のすぐ近くの、古びた建物だった。