人波に流され歩きながら、手を差し出す慎也がだんだんと、恥ずかしそうに「麗奈」と催促してきた。
「…早く」
………いい、の?
絶対今、あたし顔赤い。
だって、すごい熱い。
顔も手も、ぜんぶぜんぶ。
…慎也の、せいで。
「あ、りがとう」
少しだけ震えた声と、恐る恐る重ねた手。
慎也は優しく目を細めて、そしてしっかりとあたしの手を握った。
「これで、はぐれない」
……ああ。
やっぱり、好き。
周りはすごく騒がしいはずなのに、彼の声ははっきりと聞こえる。
あたしを、遠い遠いどこかへ連れていく。
今まで、恋をしたことは何度かあったけれど。
こんな感覚は、初めてだった。
まるで心がどこかへ行っちゃったみたいに、現実味がなくて。
あたしの一歩前を歩く、彼の広い背中が光を帯びる。
…好きな男の子を、カッコいいと思うことは、何度もあったけど。
こんなにも切なくて、優しい心地がしたのは初めてだった。
繋がった手に、泣きたい気持ちになる。
彼の隣にいるのは、あたし。
今、彼の手を握っているのは、あたし。