あたしの前に立った彼は、それでも優しく笑っていた。
唇を噛んで眉を寄せるあたしに、「ありがと」と言う。
…笑わないでよ。
いつも笑ってばっかだから、不安になる。
池谷くんはいつ、苦しさを吐き出しているの?
「…小城さんは、まっすぐだよね」
あのときと同じ、そっとあたしの頬に触れる。
その手は、冷たかった。
「…池谷くんは、まっすぐじゃないの…?」
見上げて、合った彼の瞳は、暗かった。
…やっぱり、どこを見てるの。
目の前にいるのはあたしのはずなのに、彼は今、あたしを見てない。
……好きな人のこと、考えてるの?
「俺は、まっすぐじゃないよ」
頬から、彼の手が離れる。
池谷くんは、あたしの視線から逃れるように、目を閉じた。



